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鏡の中の鏡


正しさ、なんてものはないんだろう。
すべてが一つの正しさとなって。
世界はまるで万華鏡のように広がって。
どれが正しい、なんて愚問なんだ。
きっと。

オレは。
オレの正しさは。
どうなんだろう。
思う。
思う。

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ゆっくりと


最近。
ずっとそばに0がいる気がする。
はっきり言葉が聞こえるわけでもなく、姿が見えてるわけでもない。
ただ、感じてる。
まるで自分が0になってるんじゃないか、と
思ってしまいそうになるほどに。
だから安心してる。落ち着いていられる。
グッと、何かを自分の中に引き込むような。
ゆるりゆるりと、指の間を通すような。
そこから、何かを導き出すような。
0が今までオレにしてくれていた行程が感じられるような。
そんな感じがする。

「お前にもできるだろ?」と、言われている気がする。
昔と比べても、明らかにオレへの接し方が変わってる。
そう。
オレには何もできないから、無理矢理0が道を用意してくれて、
その道を、まるで引きずられるように、進んで来た。
それが、今。
認められたような。
いや、でもオレへの見た方が変わったわけじゃない。
ただ、引きずられて、引きずられて、辿り着いた場所で、
やっと自分で考えて、自分の思いを形にできるようになったんだろう。
そこから誰かのために考えて、誰かの思いを形にする方法を、
0は教えようとしてくれているのかもしれない。

オレが死ねなかった理由。
どう頑張っても、自殺できなかった理由。
自分自身は、誰もオレを殺そうとしてくれない、とか。
死んでもいい許可をくれない、とか。
そんな風に思っていたけども。
本当は違うのかもしれない。
オレが思い描く目標が高すぎて、届かなくて、諦めたかっただけで。
そんな中で、0はオレを信じてくれたのかもしれない。
「どうすればいいのか考えろ」とか。
「本当にそれが正しいと思うならやってみろ」とか。
オレが自分の目標から目を背けようとする度に、
「それで本当にいいのか」と、問いかけてくれた。
痛かった。辛かった。でも。
どこかで、諦めたくなかったのかもしれない。
しがみつくように、0の後を追っていた気がする。

今は。思えば。オレは変わった。
自分の目標を、じっと見ていられるようになった気がする。
もちろん、諦めたくなって目を伏せることは、未だにあるけど。
昔のように、逃げ方ばかり考えることはなくなった。
自信を持って、目標に向かって進む、なんてことはまだできない。
だから。
今度は進み方を0は教えてくれようとしているのかもしれない。
オレが怯えていた、力の使い方を。
物事を取り込んで、吐き出す方法を。
まるで、深い呼吸の中で、呼吸の方法を教えてもらうかのように。
ゆっくりと、ゆっくりと。
怯える必要がないことを、教えてくれようとしている気がする。

怯えはまだ消えない。苦しさはまだ消えない。
まだ、どこか後ずさりたくて。
そんなオレを、0が支えてくれているような感じ。
「落ち着け」「ゆっくりでいい」と、言われているような。
そんな安心感。
でも、未だに分からない。
自分が目標としていることが、本当に目指すべき場所なのか。
その場所は、どこかはっきりしているのだけども。
それでいいのか、と聞かれるたびに、分からなくなる。

・・・あぁ。違う。
そういうことか。
0は、オレを前に進ませるために、
目標をしっかりみろ、と言っているんだろう。
自信がないなら進まなくていい。
自信がつくまで、ゆっくり考えろ、と。
そういうことなんだ。きっと。
この安心感の中で。
0が支えてくれるから、やっと立っていられる、この中で。
オレは、考えるべきなんだ。

ごめん。0。
もうすでに10年近くかかっているのに。
ここからまだどれだけ時間がかかるか分からない。
でも。0がオレを信じてくれているのなら。
少し、頑張ってみたい。
耐えられなくなったら、放っておいてくれていい。
殺してくれていい。
それまでは。オレも。
やれるところまで、やってみようと思う。

そんな気持ちを分かってくれているのかは分からない。
でも。
微かにあった揺らぎが消えて。
0自身が安心してくれたような、そんな気がした。

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予感


どうしてだか、充実している。
よく分からないが、充実している。
でも、悩みがないわけじゃない。
モヤモヤが全くない、というわけじゃない。
どこか、何かに安心している。
具体的には、何故、どうして、
安心しているのか、分からないのだが。

どうしようもなく、落ち着いている。
ゆっくり、ゆっくりと、物事を考えていく。
どうするべきか。
どうあるべきか。
何を悩むべきなのか。
その先でどうするべきなのか。
そっと、じっくり、歩いている感じ。
まるで、景色をゆっくりと眺めながら、歩いているような。
そんな感じだ。

何かが見つけられそうな。
そんな予感がする。
何かが、はっきりと、聞こえてくる、気がする。

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自分にある権利


そこにあるソレは。
確かに氷山の一角かもしれない。
でも「嘘」ではなく。
「一部」である、ということを理解しなければならない。
ソレだけでは足りず、かつ、ソレ抜きでは
「すべて」を理解するには至らない。
ツツ、と、指先で思考をなぞる。
次はどうなぞればいいのだろう、と、指を滑らせていく。
その中で、怯えが薄れていくのを感じる。
でも、ただ怯えなくなるだけではダメだ。
何故怯えていたのか、理由があるはずなのだから。

壊したくない。汚したくない。
オレが関わることで、変質してしまう何かがあるのなら、
オレなんかが関わってはいけないんだ。
そう。そんな怯え。
でも、今。
自分が「幻」であり「嘘」だと思っていた何かを、
素直に信じることができそうになってきた今。
その「幻」の言葉が、はっきりと聞き取れる気がした。

どうして。
楽しいよ。嬉しいよ。
そこにいてよ。話してよ。遊ぼうよ。
迷惑だなんて思ってない。
確かにイラッとしたことはあるかもしれない。
でも、恨んだことなんかない。
消えて欲しい、なんて思ったことない。
より良くあって欲しいよ。
もっといい関係を築けるはず。
逃げないで。泣かないで。
笑ってよ。

その言葉のすべてを、聞き流していた。
その言葉すべてに対して、首を横に振っていた。
「それは理想じゃない」と。
理想とすべきものがなんなのか、はっきりと理解もせずに。
今なら何となく分かる。
その人が幸せになるためにできることこそ、理想なんじゃないのか。
そこには確かに偽りがあったり、最善ではないものがあるかもしれない。
それでも。
心から幸せを感じられるのなら、それこそが理想なんじゃないのか。
今なら、そう思える。

途端に。
幾億もの「理想」の形が、目の前でちらつく。
すべてのものに、固有の幸せがあって。
決して、すべての幸せが同じものであると
思い込んではいけないんだ、と実感させられる。
その幸せの中には、オレという小さな小さな存在であっても、
実現することができるものだってあるんだろう。
オレにはまだ、できることがあるんじゃないか?
いろんな可能性が、ちらちらと、目の前を走っていく。

まるで、糸が切れたかのように。
自分の中で、何かが動き始めた。
怯えが薄れる。何かに触れようと、自分が動き出す。
自分と言う存在が、自分の中で大きくなっていく。
納得できなかった、無理矢理納得していた何かを、越えていく。
頭の中を、たくさんの物事が、大きな水の流れのように流れていく。
自分を蔑む気持ちが薄れていく。
代わりに別の何かが、心の中で溢れる。
世界にとって、自分が本当に「一部」なんだと自覚していく。
自分には、できることがある。
悩んでもいいんだ。笑ってもいいんだ。泣いてもいいんだ。
許す、許さない、じゃない。償う、償わない、じゃない。
それだけじゃ、幸せはやってこない。理想はやってこないんだ。

自分には生きる権利があるんだ、
死ななければならないわけじゃないんだ、と。
やっと理解した気がする。
でも、まだ、自分の中の何が変わったのか、はっきりは分からない。
ただ、変わりつつあるんだと、思う。

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「みちしるべ」を

心が落ち着く。
でも虚しさは消えない。
まるで深い深い水の底へ沈んでいくかのように。
穏やかで。心地よく。
そして孤独だ。

こうなってくると。
「自分」を強く意識させられる。
それゆえに、自由を感じる。
自分の感じているものを、改めて思う。
自分にとって、それがいかに、大切なものなのか。
はっきりと、感じる。
例え、他から見ればゴミだと言われかねないソレが。
自由だからこそ、大切だと言える。

久々に0を見た。
重力を感じさせない、かといって遠い場所にはなく、
ふわりふわりと浮かびながら、それでも確固たる存在感。
そこに0がいる、と感じると。
自然と神経がそっちへ行ってしまう。
何?何?と。
耳を傾けるような。お告げを待つような。
そんな気分になる。

「それでいいのか?それが本当に答えなのか?」と。
オレに問いを投げかけてくる。
そう。まだこれは答えじゃない。
違和感を感じてる。それは分かってる。
まだ、オレは考えるべきだ。
どうするべきなのか。どうあるべきなのかを。
なら、どうすればいいのだろう?
0にそう問いかけたい半面、どこか問えない。
自分はまだ、考えが浅いから。
まだ、助けを求めてはいけない。

でも。どこかで分かってる。
きっと、自分にはろくでもない答えしか導けない。
「0」とだけ。声が漏れる。
目を細めて、ジッと見られる。
分かってる。自分が、どうにかしなければ。
自分が、どうするのか、選ばなければ。
答えを与えてもらえるんだと、甘えちゃいけない。
オレは自分で考えなければならない。
ただ。ヒントが、欲しい。
何か、大切な、何かが。足りない。

そう思ったのを察したのか、0は目を伏せた。
「お前は何を望んでいる?」
また、問われる。
確かに今、オレの望みは揺らいでる。
他人のために、と思う半面。
自分には他人のためになんて何もできないんだ、と。
自分のためを思い始めている部分だってある。
さらにそこに、死を思うことも、当然消えてない。
いろんな望みが、自分の中でグチャグチャになってる。
そう、伝えた。
すると、0が語ってくれた。

他人を思うのは自分だ。
他人のためを思うのは自分だ。
そこにあるのは本当の他人ではなく、自分が思い描いた幻だ。
でも。生きている限り。
その幻に振り回されなければならない。
だからこそ、もうそこには「幻」ではない、
「本当」の価値があると認識しても構わないだろう?
お前にとって、それは「幻」ではなく「本当」なのだから。

深く、聞き入る。
そう。そうだ。まず。オレが思う「他人」は。
オレにとって「本当」なんだ。
一つ、呑み込む。
それを確認してか、間を置いて0が続けて語ってくれた。

その「幻」は、お前にどんな態度をとっていた?
そこにある姿、形、言動は、どんなものだった?
お前はそのすべてを「本当」と受け止めたことがあるか?
「幻」を見ようとせず、「幻」の奥にある
「本当」に怯えていただろう?
何かを、受け入れられずにいるだろう?

一つ一つ、言葉を拾うように、聞く。
そう。そうだ。
オレは結局、他人を見ていないんだ。
その他人は幻だからと言い聞かせて、
その奥にある何かに、ずっとずっと怯えてきた。
うん、うん、と。まるで指をなぞるように。
そっと0の言葉を追う。
追いついて、そこから0が一つの結論を語ってくれた。

見てみろ。その幻を。
そして信じてみろ。
もし、その奥に何かがあると思うのなら。
問え。その幻に。
「本当」はお前の中にはない。
幻の奥だ。

グッと。与えられた結論を引き寄せる。
途端、まるで霧が晴れるかのように、
感じていたモヤモヤが薄れていく。
たくさんの、考えるべき事柄、道が、見えてきた。
「ありがとうございます」と、0に礼を言う。
すると、0が霧のように消えてしまった。

どうしてだか、泣きたくなった。
悲しいわけじゃない。どちらかといえば、安堵に近い。
自分にとって0は本当に大きな存在なんだ、と改めて実感する。
そして、そんな存在が、こんな自分を相手にしてくれる。
幸せだ。だからこそ。
オレは与えてもらった結論を握りしめて。
どうすべきなのか。
また考えていくんだ。

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