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そんなところで何モタモタしてんだ？

声にハッとして、目の前にいる何かを改めて視認する。
そこには昔、何故か必死に目指していた何かの姿があった。
当時から特に変わった様子はない。
いや、変わっていたけども、それは外側であって内側じゃない。
内側にあるものは、確固たるものとして今も存在していた。
そうか、と、安心する。
と共に疑問が浮かぶ。
何故、ここにいる？
どこか遠くへ行ってしまったはずだ。
もう帰って来るはずのないものだったはずだ。
それが今、何故ここに？

何故も何も、呼んだのはお前だろ？

いや、違う。そうじゃない。
確かにどこかで呼んでしまったかもしれない。
でも、呼んだからと言って、ここに現れるわけじゃない。
それに。
そんなことをして、足を引っ張るような、
自由を奪うような、そんなマネをしたくない。

それこそ違うな。
お前はただ、走りたいだけだろ？
お前の道を、お前の足で。
でもお前はそれをしない。
いや、できなくなってるんじゃないか？
立ち止まって、動けなくなって、さ。
お前にとってそれはピンチで、だからＳＯＳ出してるんだろ？

何故だろう。返す言葉が見つからない。
確かに、そうかもしれない。そうだと思う。
でもだからなんなんだ。
こんなもの理由にはなり得ない。
何かに変化を及ぼすようなものじゃない。

何でそんなに屁理屈なんだ？理由にならない？
なるだろ！
やりたいと思ったならそれが立派な理由さ！

違う。違う。そうじゃない。そうじゃない。
ごめん。理由にならないとか、そういうんじゃない。
したくないんだ。
もし。もしも。
オレがＳＯＳを出してしまっていたとしても。
オレはオレを救いたいとは思わない。
だから、もう、いいんだ。

・・・オレはお前を救いたい。
お前がお前をそうやって苦しめるなら、
オレはお前がお前を苦しめなくなるまで、
どんなことでも試してやるさ。

もし助けられたオレが貴方を殺そうとしていても？

それはそれさ。
もしそうなったなら、受けて立つぜ。

迷いもなければ、たじろぐ様子もない。
・・・まっすぐだなぁ。恐ろしいほどに。

で？ようは戦うことをやめちまったのか？

戦う？何と？

自分と。

いや。そんなことはない。
オレには理想がある。そのために自分と戦って来た。
自分を殺すための、戦いを。

気にいらないな。
自分を殺す？何故？

自分が、そうしたいからだよ。

だったらオレがさせない。
グダグダ言ってないで、ほら走るぜ！



無理矢理、走らされる。
それが楽しいことなのは知ってる。
それどころか、楽しいことは他にも山ほどある。
それは知ってる。
でもそれは理由にはならない。
いや、それ以上の、譲ることのできないものがある。
オレはそのための戦いをしてきた。
だから、オレはそんなオレに満足していて。
あぁ。あれ。何か、違う。
とか、そんな思考は遮断された。
急に足を止められてしまった。
勢い余ってこける。
まあ、大丈夫だけど。
なんだろう。

お前は、何を守りたいんだ？
なんのために、殺すなんて、そんなことをするんだ？
お前がなんの敵なんだ？
なんでそんなに、自分を敵にしたいんだ？
お前が楽しむことが、そんなに悪いことなのか？

不機嫌そうだ。とても。とても。
守りたいもの。それは、分かってる。つもり。
自分が敵である理由も、分かってる。つもり。
でも。
敵にしたいのか？と言われても、分からない。
楽しむことが悪いことなのか？と言われても、分からない。
それはまるで、自分の中に常識として刷り込まれた概念のように空っぽだ。
敵だから敵、悪いから悪い。そんな感覚。

空っぽ？だったらなんでそんなことするんだ？
オレはお前を敵だとは思わないし、楽しんでたって悪いとは思わないぜ？

あぁ、いや。完全な空っぽじゃない。
オレは、今の世界が好きだ。
世界がその流れを保ってくれればそれでいい。
オレが楽しむためにオレが触れてしまったものは、
その流れをオレに乱されてしまう。
だから、オレは邪魔な存在なんだ。

お前、触ったとか笑ったとか、
そんな小さなことで自分を邪魔だとか言ってるのか？

小さい？
違う。小さくなんかない。
オレは知らないんだ。
オレが何をすることで世界がどうなってしまうのか。
オレは知らないんだ。

だったら確かめればいい。

それじゃ遅いんだ。
その時にはもう変化が生まれてしまっている。
それじゃ遅いんだ。

・・・