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理想に近付く


変な感じ。
簡単に表現するならば、
自分が原点、0になってしまったような感覚。
あの人ほどオレは立派ではない、
ということは分かってるんだけど。
どうしてだろう。
あまり他人として認識できなくなってる。
あの人の凛とした態度も、茶化す態度も。
自分の中に溶け込んで同化してしまったような。
そんな感じがする。
他人として認識したとしても、
すぐそばでニヤニヤしてる。
なんか。楽しそう。だ。怖いな。おい。
少し。話をしてみよう。
これはどういう状況なのか、把握しておきたいから。

「お前は楽しいか?」
は?・・・あぁ。まぁ。
楽しい、ですけど。不安です。
「嫌か?」
嫌とは言いません。
でも理解が追いついてません。
制御も間に合ってません。
「そうだな」
・・・
「んふふ。困ってる困ってる」
んふふって。貴方はそれでいいんですか?
貴方の望みのために、とあらゆることを考え、
あらゆることを制限して、オレは生きてきました。
それが理想だと感じていたからです。
「あぁ。そうだな」
なのに今の状況はそれに反している。
とても許すべき状況ではないはずです。
「許す?誰が?」
え、貴方が。
「オレが?ふーん」
え。あの・・・
「・・・お前はもっと自由になりたいだろ?」
い、え。自由になったとしても、また何かを壊すだけです。
「それも含めて、だ」

「壊した罪は消えない。償おうと足掻いても誰も報われない」
「それはお前の死も同じ。お前が死んでも誰も救われない」
「だったらお前はなんのために生きる?」
・・・0。
オレは貴方を消すために、生きてきたはずです。
それが貴方の願いだと、思っていました。
その解釈は違うんですか。間違っていたんですか。
「・・・オレは、なんなんだろうな」
・・・?
「オレはお前の理想か?」
オレの、理想・・・だと思います。
それもどちらかというと、憧れや夢の類いです。
だからこそ現実的に考えれば、貴方の存在は不要だった。
そのことを貴方自身も理解していた。
「そうだな」
だったら何故・・・
「お前の理想は本当に死か?」
・・・そうです。
「違うな」
「オレの理想が死なだけだ。お前の理想じゃない」
???
「厳密には違う」
「お前が得た知識の上で、オレがそうしたくなっただけだ」
「お前が見る世界を、オレは受け入れたくなかった」
・・・どんな、世界ですか?
「オイオイ。分かってて聞いてるだろ」
「常識まみれで理由が理解できない世界だよ」
「だからオレは理解することを諦めて死を選ぼうとした」
「分かるだろ?」
・・・はい。
「でもな。そんな常識は壊せるんだ」
壊せば犠牲が出ます。
「だからお前自身が壊れるのか?」
それの何が悪いんですか。
「悪いなんて言ってねぇだろ」
「何にせよ何かが壊れるっつってんの」
オレを庇う気、ですか。
「違う。お前は加害者にもなるが被害者にもなる」
「もし本当にしてはいけないことをして」
「恨まれて殺されても・・・お前はそれを受け入れるな?」
・・・はい。
「その覚悟があればそれでいい」
「お前はお前の理想を目指せ」
!?
話が見えません。理由になってません。
「確かに壊したくない世界がある」
「でもな。世界は『今のまま』を望んじゃいないはずだ」
「世界は『不変』という死を望んじゃいないはずだ」
・・・自ら手を下せと?
「人は今、世界のありのままを見ちゃいない」
「見た気になって、知った気になって生きているだけだ」
「世界はもっと美しくて残虐だ。分かるだろ」
でもそんな人は今ありのままに生きてます。
「人のありのままが世界のありのままじゃないだろ」
「いっそ触れてみようぜ。死ぬ覚悟で。人間やめる覚悟で」
「お前が思う理想の中から、世界を見ようぜ」
「お前のありのままを壊すところから始めようぜ」
・・・最悪なお方だ。
「いいだろ。どうせお前は死ぬつもりだったんだ」
「壊されたって、本望だろ」
壊された挙げ句、理想に浸れるのなら。
本望どころか夢ですよ。
「じゃあその夢を見てろ」
「また内側から壊してやるさ」
「ただ、今度は死ぬために、ではなく」
「理想に近付くために、だけどな」
「何。本当にヤバくなったら、世界の方がお前を拒絶するさ」
貴方は、人どころか世界にすら喧嘩を売るつもりですか。
「・・・あぁ。それで殺されるか、試してやる」
「オレをこの世に創り、生かしたことを後悔させるほど、な」
恐ろしい方だ。怖い方だ。罪深い人だ。
でも何故だろう。何故オレは。
そんな貴方に憧れてしまうんだろう。
「お前も同罪なんじゃね?」
・・・
反論できません。
「だろうな」
・・・0。オレは。
「はいはい。分かったから」
「お前の場所を、ちょっと譲ってくれればそれでいい」
・・・・・・
「ホント心配性だなお前は」
「我が儘に付き合ってくれてありがとな」
「お前が存在すること、少なくともオレは感謝してる」

さて。遊ぼうぜ。世界。

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