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風のように駆け抜ける


風のように駆け抜ける。
と、いう言葉そのものはありふれている。
でも、思えば。
そのありふれた言葉の意味を、深く考えることはあっただろうか。

彼の走りは相変わらず、何かを感じさせる。
ただ速いだけでもなく、ただかっこいいだけでもなく。
ただ強いだけでもなく、ただ優しいだけでもなく。
それこそ、風のように。
近くにたたずむ誰かの中を吹き抜けて、その風に巻き込んでいく。
かといって、それを強制することなく。
そしてそれに気を取られることもなく。
走り去っていく。
取り残されたものは、一瞬だけ見た異世界に惹かれつつも、
いつの間にか忘れていく。

オレはどうだろう。
何度も強く惹かれたことはあった。
それと同時に、幾度と捨てようとした。無視しようとした。
でも。
どんなに捨てようが無視しようが、
彼が走りさっていくと、ざわついて仕方がない。
自分が自分に嘘をついている、と、はっきり自覚させられてしまう。
自分の中にある誇りがはためいて、それに歓喜してしまう。
もっと風を求めて、自ら走り出しそうになる。
ダメだ。それを求めているのは、自分だけなんだ。

彼なら。なんと言うだろうか。
走れ、と言うだろうか。
自分が正しいと思う方へ有り金全部賭けろ、とか言うだろうか。
あぁ、そんな考えすらまどろっこしいだろうか。
考える間もなく吹き抜ける。
それが風なんだ。

少し。
少しだけ。
走りたい。
少しだけ・・・

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