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音の世界


埋もれた心。それは確かに感動だった。
でもそれは決して言葉にも想像にもなっていなかった。
夢は夢のまま。誰かに伝えることもままならず。
確かに理由の軸として存在しているはずなのに、
消えようとしていた。
そんな心に、触れた気がした。


いろんな音に触れて。
世界にはいろんな音があることを知った。
クラシック、ロック、ポップ、なんてものじゃない。
そんな音があることを、誰かに伝えたいと思った。
音の世界を、誰かに知って欲しいと思った。
そのために。
自分は音、音楽を仕事にしたいと思った。
だから。
人が音に触れられる世界を、
ゲームという仮想世界で表現したいと思った。
曲というかっちり完成した音ではなく、
自然な形で耳に入り、感じ取れる。
そんなものを、ゲームでなら、表現できると思った。

でも。
自分にはいい発想がない。
企画を立てることもできない。
だから誰かが立てた企画に参加して、
必要とされた音、曲だけを作ってきた。
その企画も素晴らしいものばかりだったから、
不満もなく参加してきた。
だから今はもう、
頼まれたものをひたすら作っていこうと思ってる。
自分から案を出すなんて、できないし、必要もない。


と。
オレには聞こえた。
間違っているかもしれないけど。
オレにはそう聞こえた。
確かに。
他の誰かの考えに触れて、それに自分が参加して、
何かが完成していく様は、とても感動的だ。
新たな発見と、完成する喜びを、得られる。
でも、それによって本当に自分が
望んでいたものを忘れてしまっていいのか?
動機として本当にあったものを、
ないがしろにし続けていいのか?

オレも。なんとなく分かる気がする。
音の世界の広さ、深さ。
普段耳にする音が、いかに単調でいかに少数か。
そこにある数値。そこにある波形。
いろんな要素が絡まり合って。振動が音になって。
起源となった場所から離れて響いていく。
「スピーカーですべての音を表現できる」なんて思い込みだ。
wavやmp3なんてレベルの問題じゃない。
音の方向も。音の質も。その発生源も違う。
そして、そんなスピーカー越しですら
感動を与えてくれる音を、オレは聞いたことがある。
テレビから聞こえて来たヴァイオリンの音。
それも、本当のプロが奏でる、ブレのない完全なる音。
まるで心の琴線に触れるような、繊細な音。
あの瞬間、驚いたことを、いまだに覚えている。

「知らないことを知る感動を誰かに伝えたい」
それはある種、学びの根底。
楽しい、嬉しい、なんて単純なものじゃない。
心の奥から共鳴するかのような。深いもの。
オレは、その感動を知っているかもしれない。
無知だからこそ。
「分かった」と感じた瞬間の感覚。
それそのものにはなれなくても。
調律がうまくいって、一つの和音になるかのような。
その感動。
それはある時は、意図せずにやってきて。
ある時は、自ら求めることでやってくる。
喜怒哀楽、好きや嫌いなんてものじゃない。
もっと奥深く。自分の根底。
そこから喜怒哀楽好き嫌いすべてが
生まれてもおかしくないような。
そんな、深さ。
「伝えたい」
その気持ち、分かる気がする。
だからこそ。
消えて欲しくない。蓋をして欲しくない。
どうにか、できないのか。
自分には。

ツールに頼っていてはダメだ。
今あるものに頼っていてはダメだ。
使ってはいけない、とは言わない。
でも。
そこに設計図はない。そこに理由はない。
あるのは、心の中だ。
言葉も、絵も、表せるのは所詮その模写だ。
手を動かして、口を動かす。
そんな手段を選んだ時点で、その行為は
人と情報を共有するためのデータ圧縮と変換だ。
フォーマット。マニュアル。
従って何かを作ることができたとしても、何を創れる?
複製できない本当の感動を知っているのは。
コンピュータによる演算でも過去のデータでもない。
一人一人が持つ、感覚のはずだ。

と。
騙るのは。
何も知らない、何もできない、
自分という人間だった。

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