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昔あったものがなくなりつつある。
キリキリとかキチキチとかギリギリとか、そういう音がしそうな感覚がない。
すぐそこにあった殺気がない。
むしろ。
自分がその感覚を生み出そうと必死になってる。
苦しみが足りない、みたいな。

でも、このままでいいはずがないんだ。
昔のオレはこんなことを望んでいなかった。
そして今も望みたいと思えない。
オレに求められるべきなのはこんな幸せじゃない。
オレに必要なのはこんな安らぎじゃない。

ただの後悔かもしれない。
ただ過去を引きずってるだけかもしれない。
でもそれを忘れることを望みたいとは思わない。
確かにそれは悪夢で、忘れなければ自分が喰い破られるだけだけど。
喰い破られてしまえばいいと思う。むしろそうでなくてはならない。
オレの原点であり手放しちゃいけない大事なもの。

今。きっと。その原点を。何かが。誰かが。オレから。奪おうとしてる。
オレはそれを許しちゃいけない。
まだオレはその先にある絶望を見てない。
血にまみれた世界も。憎悪に満ちた眼差しも。オレに必要な地獄も。
オレはまだ手にしてない。オレはまだ見てない。
足りない。まだ足りない。オレはまだ死んでない。
オレはまだ死に辿り着いてない。

人の話を聞こうとしない。
反省しない。自重なんかもってのほか。
我が儘で。行動に理由も意味もなくて。
あったとしても「こうしたいから」が理由であり意味で。
オレは。お前を許せない。許すわけにはいかない。
お前が犯した罪。お前の言葉はすべて言い訳。
お前にとって不利益でも、オレにとって不利益でも。
罪は罪。事実は事実。塗り替えやしない。
そして変わろうとしないお前は。罪人。
オレはお前を認めない。認めるわけにはいかない。

どうしてお前は。オレを見る？
どうしてお前は。オレを見て悲しそうな顔をする？
お前はお前の状況を悲しむべきだ。
そしてオレを恨め。オレを殺せ。お前の自由のために。
お前の首を締め上げるこのオレを。
お前の欲望の名の下に。殺せ。

あぁ。そうだな。
お前からすればオレの行為は矛盾してる。
でも、それがオレのすべてだ。
知ってるさ。オレに根がないことは。
オレの役目は最初から何の意味も価値もなかった。
もう疲れた。
お前が見るべきなのはオレじゃない。
お前の古い過去としてオレを捨ててしまえばいい。
それでお前は自由になる。

あぁ。お前は昔からそうだ。
オレのために尽くす。オレのために旅に出る。
オレのために答えを探し、オレのために傷付き続けた。
でもお前はもう昔とは違う。
お前はお前が何だったかを思い出した。
オレのために存在する意味はもうないはずだ。
お前はお前であればいい。そこにオレは必要ない。
もうオレのせいで傷付く必要もない。泣くこともない。
その手を、離せ。

ふらふら。
先が見えない。
善し悪しも決められない。
お先真っ暗。
頭ん中真っ白。

思い浮かぶものはある。
そこへ辿り着くために。
今オレは何をしてる？
そもそもそれでいいのか？
我が儘に。歩くだけ。

ただ。面白いほどに。
勝手に足が進んでる。
追い風にあおられたかのように。
いつものような足の踏ん張りも利かない。
ふらふらと思い描いた場所へ向かってる。

どうしてだろうな。
なにも見えないのに。
「こっちだ」という確信がある。
迷いが薄れて、流されていく。
自分じゃない自分が、手を引っ張っているような気さえする。

なんでお前はそんなに楽しそうなんだ。
どうしてそんなに自信満々なんだ。
お前は確かにあの子を殺した。
なのにどうしてそんなに無邪気に笑う？
どうしてそんなにオレと一緒にいようとする？

いや。分かってる。お前が誰なのかは。
でも、だからこそお前を否定しなければならない。
お前は存在してはいけない。
お前はいつか我が儘でこの世界を壊す。
どうして、笑う？

お前の目には何が映ってる？
本当に今が見えているのか？
どうして笑っていられる？
あぁ。
オレを、笑わせたいのか。お前は。

ぼーっとしてたら涙が出た。
なにも考えずとも涙が出るかコノヤロウ、と思った。

虚無感。
まあ虚無なんだから仕方ない。

考えを押し付ける自分。
嫌になる。

物理的にも精神的にも目を瞑って、自分が消えていく。
そして終わる。

毎日が楽しいとか。充実してるとか。
それを求めたのはオレじゃない。
それを欲しがっている人は別にいる。
オレが欲しいのは絶望。苦悩。悲痛。
だからいらない。
いらないんだよ。

笑おうと思えば笑える。嬉しいと思うことだってある。
でもそれに必要性を感じない。
なくたっていい。あっても仕方ない。
でも譲ることもできない。
だったらせめて。
自分をたたき落とすしかない。
「自分はあんな馬鹿とは違う」と分かってもらえればいい。
そうだよ。
オレみたいな馬鹿にはなっちゃダメだ。