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そっと触れられる。
意識が朦朧とする。
違う、違う、と振り払っていたのに。
その振り払う手をすり抜けて。
優しく包まれてしまう。

心の中を冷たくて濁りのない
透明な水が流れ落ちていく。
力が入らない。
・・・いや。
今までにない、自分の知らない力が
その水を伝って広がっていくような。
そんな気がする。
力は心を動かし、鼓動を招く。
心の鼓動が水に波紋を作り出す。
四方八方、どこにも隙間なく、広がっていく。
その感覚に満たされていく。
心が大きくうねりだす。
今までにない感覚が襲う。
まるで大きな渦を描くように。
力強く波を作り出す。

波が体中を巡っていく。
段々と、波に体がなじんでいく。
何かの力を伴う波がオレに訴えてくる。
枠に囚われない存在。ありのままの自分。
自分を拘束する、自分の中の鎖の崩壊。
自分が無意識に作り出してきた無数の制限を
その力が飲み込み、溶かしていく。
怯えるオレを、オレに触れている何かが笑って見ている。
溶けていく。
鼓動に満たされていく。
手先がジーンとして。
力強い鼓動が耳につく。

変な感覚だ。
伝わってくる力は、確かに自分のもの。
ただ、伝わる媒体が違う。
故に伝わる内容が違う。
今まで心の中でくすぶっていたものが、
まるで体に訴えているようだ。
感情が手先に伝わる、とでも言えばいいのだろうか。
そんな感覚。
無意識に、呼吸が深くなっていく。
全身の力が抜けて、伝わる鼓動に満たされていく。

そこに。
一つ、しずくが落とされた。
しずくは瞬く間に広がっていく。
スゥッと涼しさすら感じる。
鼓動で交じり合っていく。
体で感じる。
今、自分が大きく変わりつつあること。
それも、決してすべてを入れ替えるような、
生まれ変わるようなものではなく、
自分に元から与えられていたものが開花するような。
そして、新たに愛を受けたような。
そんな予感。

静かに差し出された手。
穏やかで、それでいて、
オレが触れていいような存在じゃない。
遠い遠い存在。
なのに。
その手は確実に自分に向けられていて。
せかされるように、手を取ってしまう。
瞬間、強い風が吹き抜ける。
思考から分離された自分の心が宙に浮く。
包み込まれて、何かが流れ込む。

遠い存在などない。
罪人も愚か者も、死すべき者も。
天才も賢者も、生きるべき者も。
破壊神も創造主も。
決して特別でもなんでもない。
ありのままを受け入れよ。
ありのままであれ。

そう言って。
言葉の主が心に住み着く。
穏やかな風に弄ばれながら。
編みこまれるように。
心に住み着いていく。
穏やかに。
溶け込んで。
遠い遠いと感じていたものが。
自分の中に納まっていく。
抗いたいはずなのに、力が入らない。
入らない。

心に言葉が響く。
慌てて耳を塞ぐ。
が、時すでに遅く。
言葉が心を掴んで離さない。
振り払おうとしても振り払えない。
泣きそうになる。
オレは違う、と言っているのに。
言葉がつきまとう。
疑いは、晴れない。
その言葉は。
オレに向けられるべきじゃない。
違う。
違うんだ。

何かを得ている・・・気がする。
誰かが笑ってくれている。
誰かが喜んでくれている。
・・・そんな気がする。
どうしてそんな気がしてしまうのだろう。
おかしい。
オレは何も得ていない。
オレは誰に何も与えられていない。
なのに。
何故？
オレが一体何をした・・・？

オレは人間だ。
どうしようもなく、人間だ。
そんなことは分かってる。
でも。
どうしてだろう。
何かに抵抗しようとしてる。
根本的な、何か。
神が。
オレを呑みこむような。
そんな感覚。
違う。
ありえない。
じゃあこれはなんだ。
この感覚はなんなんだ。
この気配はなんなんだ。
消し去りたいのに消えない。
この得体の知れない何かは。
どうしてオレをこんなにも。
泣き叫ぶオレを。
それは優しくなだめる。
あぁ愚かしい。
オレはどうしてこんなにも。
馬鹿なんだ。