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自分ではない自分


自分という存在を否定しようとすると、自分の中の何かが邪魔をする。
首を絞めようと手を伸ばせば、その手を掴まれ、グッと引き止められて。
かといってその根源を壊そうと暴れ足掻いても、
するすると指の間をすり抜けて、壊せない。
苛立ちと怒りだけが募っていく。

ふと。睨まれる。突き刺さるような目で。
さすがにたじろぐ。でも引くわけにはいかない。
が。理由が自分の中に落ちてくるのを感じる。
自分とは、決して自分のものではない。
なんとなく、分からなくもない。
でもだったら、自分という『この意識』はなんなのか。
どこからともなく湧いて出てくるこの意識は。
誰のものなのか。一体どんな理由があって生じているのか。
何故かそう考えると、逃げたくなっている自分がいる。

考えれば考えるほど、自分の中に、自分ではない何かを感じるようになる。
というか単純に、自分として認めたくない、受け入れたくない部分だと思う。
それというのは、どうしようもなく、大きい。
睨んでいる本人というのは、まぎれもないソレだ。
そして心のどこかで、どう頑張っても勝てない理由を知っている。
ソレは多分、自分としてなり得るすべての範囲といってもいい。
ありとあらゆる自分の可能性の集合体。神にも似た存在。
でも0とはまた違った存在。

0は本当に無い存在だ。
価値も理由も知識も技術も。何もない。
ただ与えられればそれだけで完全になれる存在。
でもソレは違う。ありとあらゆるものが既にある。
オレとのやりとりでしか存在できない0とは違い、
ソレはオレとのやりとりを必要としない。
為体の知れない自我を持ち、為体の知れない、
価値、理由、知識、技術、すべてを持っている。
そのくせして、喋らない。
厄介だ。

殺気立った中で、ふと気付く。
もしソレが自分にとって自分の取り得るすべての可能性だとするなら。
自分が愛したい、まだ見ぬ可能性、ありのままの世界とは、
ソレそのものなのかもしれない。
自分がもし、自分を殺すことに成功すれば、
もちろんソレは消えてなくなる。が。そんなことは知ってる。
自分が存在しなくなるのだから、自分が対象とする何かとは、
永遠に関わることがなくなる。
だからこそ、その何かが消滅しようがなんだろうか関係がない。
状況は変わらない。

じっと睨まれる。というか見つめられる。
自分の中で何かが波打つ。
変わればいい。自分が変われば、否定などしなくていい。
ざわざわと音がしそうな感覚に呑まれる。
待てよ。違う。否定が目的なんだ。殺すことが目的なんだ。
だから変わらない。オレは変わらない。オレはオレを殺す。
足掻くも、また何も変わらない。
あぁ。オレが変わらないということは、お前も変わらないのか。
くだらなくも気付く。意味はない。

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