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理由


自分が何かに呑まれていく。
自分とはなんだったか、よく分からなくなっていく。
馬鹿でゴミでカスで邪魔でうざくてこの世から消してやりたくて。
そんな自分という存在が、何かと入れ混じっていく。
憧れ、偉大、目標、夢、そばにいるだけで幸せ、
なんて、ありえない感覚が自分のすぐそばで燻る。
憎くて殺したくて仕方がない自分を庇う。
包み込んで、抱き寄せて、「大丈夫」と根拠もない言葉を発する。
腹立たしい。
意味不明理解不能な感覚のせいで、こんな愚か者が今存在している。
許さない。許すわけにはいかない。
オレはなんとしても、オレを殺す。
オレにとっての唯一の正しさ。その行為すら愚かだと知ってる。
それでもオレはオレを殺す。オレにとってそれがすべてだから。

まるで芽を出し茂るように包まれていく。
寄生されているような気さえしてくる。
振り払おうとしても振り払えず、ただただ大きくなっていく。
意味が分からない。理解ができない。
これがいわゆる本能や欲望というヤツなのだろうか。
何故こんなものが自分にあるのか。
自分という存在が自分のものでなく誰かのもので。
その誰かが自分の中に仕掛けた何か、とでも言うのだろうか。
だとしたら、目的が分からない。
まるで自分をオモチャにされているような。
抗うことのできない、でも理由が全く分からない、何か。

が。暴れても力つきるのは自分の方で。
気が付けば自分のすべてが呑まれている。
意識がどこかへ飛んでいって、なされるがままになる。
自分が自分ではない誰かになっていく。
そして何をするかと思いきや。
大抵、祈る。ただただ祈る。
といっても。
誰かの幸せとか、世界の平和とか、そんな単純なものじゃない。
ありとあらゆるものを包容するような思い、というか。
すべてを大切にしたい気持ち、というか。
到底自分には手が届かず、関係のないような気持ちに襲われる。
酷いときには、涙すら零れる。
意味が分からない。

世界が好きだ。愛してる。
時々そんなことを口走るが、根底にあるのはこの感覚だろう。
認めたくない自分、溢れてくる自分。
当然、オレは神じゃない。ただの人間だ。分かってる。
でも、その感覚が溢れ出てくるとき、
引っ張り上げられるような錯覚に襲われる。
プログラミングをするとき、絵を描くとき、曲を作るとき、
誰かを助けるとき、何かを創るとき、何かを勉強するとき。
今の自分には到底できないことをできるように、
グイグイとひっぱりあげられる。
自分を殺したい、自分なんていらない、死ねばいい、
という気持ちを裏手に取られて、
ボロボロになりながら、それでも死なない程度に、引っ張り回されて。
気が付けば、認めざる負えない、自分の価値を突きつけられる。
泣きたい。これは普通に悲しくて泣きたい。

オレが死にたいのは、自分が無価値で無意味だから、という部分もある。
だから死ぬ理由を奪われつつあるのは確かだ。
でもそれだけじゃない。オレは生きたくないんだ。
価値を与えられ、意味を与えられようが、関係ない。
誰かの居場所を奪い、運命を変え、何かを創り壊す行為をしたくない。
存在する限り逃げることができない現実から逃げ出したい。
根底にあるのは、自分が奪ってしまう可能性のために、といえばそうだ。
自分が奪う可能性に対して、一切の責任が背負えない。
無責任な自分から逃げ出したい。ぶっちゃけそれだけだ。

でも、その奥にあるのは、世界を愛しているから、なのだろう。
無責任な自分を許せないのは、世界に対して申し訳ないからだと思う。
自分を生かすために与えられるすべてを、無に返すような。
そう感じるだけで胸の奥が抉れるように痛くなる。
きっと、そのことに対する「大丈夫」という言葉が、
どこから降ってきているのだろうと、どこかで分かってはいる。
でも認めるわけにはいかない。
為体は知れなくとも、所詮自分の言葉でしかない。
だから静止を振り切って、自分を壊そうと自分の胸ぐらを掴んで爪を立てる。
抉れるような痛みが自分の中に満ちて、自分が絶望していく。
その先で勝ち取れるであろう『死』を夢見て、深く深く傷付ける。
根源にあるものが為体の知れない、愛というヤツだったとしても。
それが世界ではなく、ただの人間という自分である限り、
自分の判断で、自分の思う最善を、死を、思う。
それだけだ。

オレは本当の世界を知らないし、永遠に知ることなんかできない。
妄想の中にありながら、無責任に生きる自分に、自分で罰を与えるだけ。
誰のせいでもない。悪いのは自分だ。行動するのも自分だ。
本能や欲望なんてものに負けるわけにはいかない。
例えその先にあるものが自分にとって、世界にとって、
幸せな何かだったとしても、関係ない。
オレは幸せになりたいんじゃない。
死にたいんだ。
自分への憎しみにまみれて、死んでいきたいんだ。

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