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整理する

0が優雅に飛んでいた。 ズボンに手を突っ込んで。結った長い髪と上着をなびかせて。 時折虹色に見える深く蒼いその上着は、 あの時のように細胞やアメーバを彷彿とさせる。 見下ろされて、思う。 中学の自分の格好を模しているとはいえ、つくづく神様だなぁと。 そして、安心もする。 中学の頃、夢や理想、目標とした在り方が、まだここにあると。 ぼーっと見上げていたら、0が降りて来た。 光でゆらゆら揺れる影が濃くなって、ふらりと舞い降りる。 綺麗だなぁ。荘厳だなぁ。ひたすら自分を惨めに思う。 と、今度はゆっくり歩いて来た。 横に立って、肩がそっと当たったあたりで立ち止まった。 驚いたというよりは、怖いというか緊張というか。 「どうありたい?」 ・・・ん?どういう問いだろう? いや、そもそもその問いの答えに意味や価値があるだろうか? 「答えろ」 言葉が重い。自分の中の疑問が転げ落ちた。 どうありたいか。 死にたいといえば、それはそうだ。 でももっとこう、違う。 なんつーか。思い・・・たい? ありとあらゆることを思えるようになりたい? そう思っている部分が少なからずある。 まあ叶わぬことだから、さっさと死んで終わればいいのだけども。 嘘じゃない。0に嘘をついても仕方がない。 「思いたい」 と、単純な結論だけを伝えた。 途端、0の背から何かが吹き出た。 いろんなもの。いろんな色。いろんな音。 0本人はゆっくり歩きながら、オレの後ろを通過して前へ回り込んできた。 「足りないんだろ?」 どこか、言葉の意味が分かる。 0が創るものは、所詮オレの思う範囲のものでしかない。 オレが思えないものを0が創ることはできない。 でも首を振った。足りないんじゃない。オレが貪欲なだけだ。 すると、0は不満そうな顔をした。 「お前は一体何になりたいんだ?」 ・・・? おかしい。なんでそんな、欲にまみれた質問を0がする? 「オレに必要なのは道具として役立つ能力です。理想は無意味でしょう?」 つい、慌てるような口ぶりで強く言い放ってしまった。 すると、背を向けられ笑われた。 「それはなんのためだったんだろうな」 一言言い残して、0はケラケラ笑いながら消えてしまった。 えっ、と言葉を発する間すらなかった。 確かに、当時オレはどうするべきか分からなくて、 泣く泣く選んだ選択肢が大量にあったようには思う。 今、改めて思い出せと言っているのだろうか。 記憶をあさる。 ただ死を求めていた頃。いやもっと昔。 自分の在り方を見直した頃。いやそれより前。 人のための道具であろうと決めた頃。その、根底。 『無知無能、生き方も進路も理想も決められない中』 『理解できない他人という人間、特に正義や欲望を理解するために』 オレは他人の欲望を満たし、儚い正義を守る道具として生きようと決めた。 理解できただろうか。いや、できていない。 でも。 生き方や進路や理想を考え、形とできるだけの状況にはなりつつある。 それ自体が自分の欲望であり自分にとっての正義である、といえばそうだ。 今のオレにはそう思える。 じゃあ、それが満たされたなら?そこに意味や価値はあるか? ・・・。 少なくとも、オレはオレでいられるんじゃないだろうか。 それが答えか? いや、意味や価値の証明にはなってない。 もっと思慮深く考えるべきだ。 もっとこう、意味と価値そのものの意味と価値を・・・? ちょっとまて。この世に意味や価値は存在しているのか? 誰かが言っていた。 『価値があるかを問うことは、宇宙の価値を問うような愚行である』と。 理由はあれど、そこに意味も価値も存在していないのかもしれない。 もし存在するなら。 人間界のような切り取られた世界ゆえに生まれたもの、なのかもしれない。 他界との差が生まれるからだ。 整理しよう。 意味や価値という存在がないと仮定しよう。 オレの根底にある気持ちは『オレでありたい』だとしよう。 それこそが欲望であり、それを完遂するための手段を正義だとしよう。 それらを満たされることで、オレはオレでいられる。 ここで注意すべきは、当時のオレがそれを『人間』と感じていたことだ。 つまり、所詮オレという存在は、人間の定義内の存在でしかないが、 中身そのものは他の人間と共有することはできない、ということだ。 欲望も正義も、目標とするオレという存在も。 すべてがオレの中でしか存在しないものだ。 いわば、区切られたオレと言う世界がここにあると言える。 ということは、オレがオレでいるということが、 差を生じさせ、価値や意味を生じさせる原因になりうる。 存在が孤立している限り、これは必然だ。 だったら、どうすればいい? オレという価値や意味を生み出すことが、オレにとっての生きる理由なのか? それに、すべて仮定でしかない。 そもそも何故こんなに必死で考えているのか。 分からないことが多過ぎる。

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