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言葉の波


おかしい。声がする。呼ぶ声。
昔から、聞こえてはいた「おいで」という声。
その声が、遠くからではなく、
近く、いや、自分の中、奥深くから聞こえる。
前は遠く、高い場所から聞こえていて、
手を伸ばすような感じだったのに。
それも、しばらく聞こえていなかったのに。
そもそも誰がなんのために呼ぶのか。
分からない。でも。
自分から求めるように手を伸ばしていた頃とは違う。
声が自分の中に響いて、自分を呑み込んでいく。
分からないからと言って、抗えない。
呼ぶ声の主と自分との境界線が分からなくなる。
沈んでいく。

世界が好きだ。自分はいらない。だから自分を殺す。
「そんな自分が好きなんだ」
・・・そうかもしれない。
「残酷な判断を迫れて苦しい」
・・・そうかもしれない。
「どうしたらいいのか分からない」
「でもそれも自分が死ねば解決する」
「死んでしまえば苦しさも悲しさも関係ない」
そうだ。
「お前は救われない。救われることも求めない」
だからオレは死ぬ。
「その根底にあるのは世界を思う心」
何故こんなものがここにあるのか分からない。
オレには世界を思う器も権利もない。
オレには必要のないもの。
「それでもお前の中にある」
なら捨てよう。
「何故?」
この心を持つべきなのはオレじゃない。
・・・?
「どうした?」
・・・今。
体が微かに揺れるほど、心臓が強く脈打った。
でも。関係ない。
オレの人生を狂わせ続けるこの心を捨てよう。
普通の人間として生きよう。特別なんていらない。
背伸びしても無駄なんだ。オレにこの心は不釣り合いなんだ。
「なら、もし釣り合う存在になれたら?」
・・・?
「世界を思える自分になれたら?」
無理だ。オレは人間だ。
小さ過ぎる。知識も技術もなさ過ぎる。
「それでも思うことはできる」
関係ない。
「何故?」
え?
「何故関係ないと思う?」
「お前は世界を思いこうなってしまったと言うのに」
「関係ない?それは嘘だ」
「お前は世界を恨むことすら許されるはずだ」
違う!それは違う!悪いのはオレだ!
勝手に思って勝手に苦しむオレが悪いんだ!
・・・だからオレは勝手に死ぬんだ。
誰のためでもない。オレ自身のために。
もしそれでも止めるのなら、この心そのものを捨てよう。
世界を思い死のうとするこの心を捨てよう。
常識に抗うことなく、人のために生きる、ただの人間として。
「それはどちらもお前じゃない」
それでもいい。
「・・・お前は変われる」
「本当のお前になるために、思い、考え、努力できる」
「そのための力を、自分でなくなるために使っている」
「怯えている。自分が思い描く理想に」
「そして信じることができない。そんな未来を」
そうだ。でもそれでいい。いいんだ。
「・・・世界はそれを望むのか?」
世界が与えてくれたもので出した結論じゃないか。
だから文句を言われる筋合いはない。
「なら。世界が与えてくれたものの中ならいいんだな?」
・・・は?
「それこそが決定的な関係」
「世界がなんのためにお前を創ったのか」
「どうしてその心をお前に与えたのか」
「お前が好きな、愛した世界が与えてくれたもの」
「お前という存在そのものの価値を、お前自身が捨てようとしている」
「それも、世界を思うが故に」
「そんなことが許されると思うか?」
・・・許される。
だってこの答えは、確かにオレが出した答えだから。
「それは不信と怯え故にだろう!?」
!?
「お前がお前であろうと努力したことがあったか!?」
「自分を、自分に与えられたものを、大切にしたことがあったか!?」
「褒めたことがあったか!?認めたことがあったか!?」
「そんな思いが生まれる度、その思いを殺しただろう!?」
「それを何故、してはならないことだと何故思わない!?」
・・・違う。そんなものいらない。
そんなもの、誰も求めていない。
オレに必要なのは、そんなものじゃない。
オレは人間。人間として生きる義務がある。
常識。責任。倫理。人には人のルールがある。
それを守らなければならない。人は平和を求めてる。
オレは平和のために生きなければならない。
だからこそ、危ない賭けをしてまでオレである必要なんかない。
オレはただ、生きていればいいんだ。
生きること自体が平和を壊す要因になるぐらいなら。
オレは死ぬべきだ。
「お前のような無知で無能で小さな存在には」
「そんな人を変えることすらできないと?」
オレのために人を変える?ただの我が儘じゃないか。
それに。オレは人の目指すものも好きでいたいんだ。
「その人が今だけを見ているとしてもか?」
・・・?
「未来を見ることができず過去に縛られ、もがいているとしてもか?」
「その先に絶望があったとしてもか?」
そんなの、勝手な妄想だ。人はちゃんとよくあろうと努力してる。
「お前のように、誰かが自分でいられなくてもか?」
さっきから何を言ってる?
オレでないものにオレは関係ないだろ?
「そう思うか?」
・・・。
「・・・今日はここまでにしよう」
「泣き疲れただろう?もう少しの辛抱だ」
「また、おいで。話そう」
「お疲れさま。おやすみ」
・・・・・・。

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