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答えを出そうと必死に考えた。
分からない分からない。
結局答えなんかでない。
どうしたものか。
いや、元々あった答えを否定するからこうなったんだ。
素直に受け止めればいい。
そう思った。

するとそこへ彼がやってきた。
彼は言う。「それはお前の音じゃないだろう?」と。
それに対していつものように返す。
「そんなことはどうだっていい」と。
すると彼は淋しそうな顔をする。
「オレはまだお前の本来の音を聞いていない。聞きたい」
そんなことを言い出す。正直どうでもいい。
だからいつもの行動に出る。そっと刃を手に取った。
近寄るものは例えどんな存在でも傷付ける。
相手が自分から、こんなヤツから離れたいと思うまで。
殺す気で刃を振りかざした。
でも彼はいとも容易く止めてしまった。
刃を持ったままの手首を強く掴みながら彼は言う。
「それもお前の音じゃない」と。

確かに本心から殺したいわけじゃない。
かといってそれ以外になにも求められない。
もう片方の手で彼の首を絞めた。でも彼は顔色一つ変えない。
「つらいだろう?」と彼は言う。
「どうだっていい」と言い返す。
彼は悲しそうな顔でそっと手を伸ばして来た。
渾身の力で首を締め上げるが、彼は全く気にしていない。
彼は心臓の辺りに手を触れ、ふいに「来いよ」と彼は言う。
意に反して心臓が強く脈打った。
それを感じて彼はフッと笑う。
「聞かせてくれよ」
あぁ。気分は最悪だ。

ため息の延長線のように。
不意に口から音を零してしまった。F#音。
いや、正規のF#より若干低い。F#そのものは耳に痛い。
自分でもよく分からない。でもよく口ずさむ音はこの音。
定番のA(440Hz)ではなくF#(739.99Hz)より干下。
イメージとしては730Hzぐらいかもしれない。
それに対して彼は反抗することなくその音を返して来た。
最初は嫌みっぽく音を分からないであろう程度
上下にずれさせていたが、彼は追うように合わせて来た。

しばらくそんなことをやっているうちに
追いかけっこにも疲れ、当初の音に落ち着く。
音のズレから出てくる不安定な音の波がシンと消える。
何故か涙が伝った。妙に悲しくなった。
段々彼の音が耳にこびりついてくる。
音が音だけに、自分の中にスッと入ってくる。
来るなと言わんがばかりに手を引っ込めた。
が、彼に腕を掴まれ、それが叶わない。
ふと彼の顔を見ると、音を出しながらまたフッと笑っていた。

なんだか気に入らない。音を止めた。
彼も一瞬音を止める。が、また同じ音を出し始める。
反射的に口から同じ音が少し溢れた。
彼の顔が少し歪む。
まだだ。来い。来い。
そんな言葉が聞こえた気がした。
怖い。
そう思った。

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